ANATOMICAと苧麻、パリでの縁が紡いだ物語
シェア
古い着物には、産地も、つくられた年代も、すべてが明確に記されているわけではありません。
それでも宇佐見氏は、生地に触れ、先人の言葉と答え合わせをしながら、その布が歩んできた時間を探っていきます。
そして、そんな宇佐見氏の活動は、パリで長くANATOMICAを率いてきたピエール・フルニエとの縁へとつながっていきます。
—— 産地によって、生地にはどんな違いがありますか?
産地での生地の違いは、言葉にできるほど確かではございません。
着物には品質表示がないので、生地と肌で感じて、先人からいただいた言葉と答え合わせをしている日々です。
でも、誰も答えを教えてくれません。
そんな生地が多いです。

—— そんな宇佐見さんとANATOMICAの縁は、いつ頃から始まったのでしょうか?
かつて私が在籍していた会社で、新たにブランドを立ち上げたときに、ANATOMICAをやりたいという話になって。
私はパリで、おそるおそるピエールに連絡を取る係だったんです。
エミスフェールのお店もかっこよかったですからね。
当時のバイヤーの人たちにとっても、憧れのブランドでした。
ピエール自身も、「マドモアゼル宇佐見が、日本で一番最初のお客さんだったんだよ」って覚えてくれていて。
それが巡り巡って、こんなことになるなんて思ってもいなかったです。
—— その後、ピエールと苧麻を通して再びつながっていくわけですね。
2023年、パリに帰ったときに、ピエールとバラタンでばったり会ったんです。
彼のパートナーが私のInstagramを彼に見せてくれていて。
後日聞いた話なんですが、紀[KI]-SIÈCLEのInstagramを見たピエールの第一声が「Pas mal」だったそうです。
「悪くないじゃないか」というような意味なんですが、これも一種の褒め言葉で。
ピエールにしては、本当に興味を持っている感じのリアクションだったと。
それで、「カラムシ」という言葉を覚えて、学んでくれました。
そのパリ滞在中に、いくつか手持ちしていたサンプルを見てもらって、オーダーをいただいたのが始まりです。
ピエールは当時、ANATOMICA PARISのレディースを強化したいと思っていたようで、レディース向けのモデルとサイズでオーダーをいただきました。
ワークコート、ジャケット、ラッププリーツスカート、シャツワンピースなどです。

—— ピエールとは、その後どのような関係になっていったのでしょう?
実は最初、私は逃げ回っていたんです。
しょっちゅう彼のパートナーから「ご飯食べようよ〜」って連絡をもらうんですけど、何を話せばいいのかわからなくて。
でも、あるとき古着屋さんでばったり会って。
そこでピエールから「マドモアゼル紀子、僕と仕事をしてくれませんか」と言われたんです。
僕と仕事って言われても意味がわからないから、「もちろん!喜んで!なにをすればいいでしょうか?」って返したら、
「君の洋服を見せなさい」
と言われて。
そこからパリのお店に置いてもらうことになりました。
日本の古い生地で服を作ろうと思ったときに、ピエールが最初から頭にあったわけではないんです。
恐れ多い人なので。
でも今は、先人の話はできるだけ聞かなきゃいけないと思っています。

ピエールから学べることは学ばなきゃって。
たとえばジャケットの形を見て、「僕だったらこうするけどな〜」って言ってくれるんですよ。
たまに古着屋で服の取り合いになったりもしますけどね。
縁って、不思議なものですね。

—— ANATOMICA KYOTOのために、苧麻生地でDOLMANを作ったことについて、どう感じていますか?
DOLMANの形って、全部フランス製ですよね?
だから、そのパターンをお預かりするって、相当なことだと思っています。
誰にも渡したことのないパターンを預かってしまったみたいな。
本当に嬉しいご縁をいただいたなと思っています。
ピエールの気持ちを引き継いで、みんなで一緒に広めていけたらと思っています。
—— 最後に、これから苧麻をどのように残していきたいですか?
私ね、破れやすい生地や、少し傷のある苧麻の生地の裏側に別の生地を張って、破れてもそのまま着ていられる、ボロボロになっても着ていられる形を作ろうと思っているんです。
破けちゃっても、そのまま着ていてくれ、みたいな。
たとえばDOLMANのびりびりバージョンとか。
100年たった生地なので、無茶な着方はできないんですけど、どうしてもショルダーバッグとか持つじゃないですか。
だから、そういうのもアリかなって。
きれいなまま残すだけじゃなくて、着て、破れて、直して。
そうやってまた次の人に渡っていく。
そういうふうに、この布がこれからの新しい100年を生き延びてくれたらいいなと思っています。

紀[KI]-SIÈCLE 苧麻オーダー会
2026.9/11(FRI)-9/13(SUN)
in ANATOMICA KYOTO
この度、ANATOMICA KYOTO 2周年を記念して、9月11日(金)から13日(日)まで、宇佐見紀子氏に在廊いただき、紀[KI]-SIÈCLE 苧麻のオーダー会を開催します。
100年以上の時間を経て、今なお残る苧麻の布。
その一枚一枚と向き合いながら、宇佐見氏が仕立てる服には、それぞれ異なる生い立ちと表情があります。
DOLMAN、ARTHURのセミオーダーはもちろん、紀[KI]-SIÈCLEのアイテムもご覧いただける特別な機会です。
実際に生地に触れ、宇佐見氏の話を聞きながら、これからの100年をともに過ごす一着を選んでいただければと思います。
皆さまのご来店をお待ちしております。