時を纏う、宇佐見紀子氏と苧麻の100年
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ANATOMICA KYOTOに欠かせないアイテムと言えば、苧麻絣の生地を使ったDOLMANやARTHUR。
そんな苧麻絣の生地を届けてくださっているのが、紀[KI]-SIÈCLEを手がける宇佐見紀子氏です。
古い着物を一枚の布に還し、その布が持つ時間ごと、もう一度服として生かしていく。
それは、ただ美しい生地を使って服をつくるということではありません。
100年以上前手塩にかけて育てられた植物としての苧麻(カラムシ)を、手仕事で糸にし、織り、着物に仕立て、そして長い時間を経て今ここにある布。その一枚いちまいを洗い、ほどき、触れ、感じながら、次の100年へと手渡していく。
宇佐見氏と苧麻の出会いから、紀[KI]-SIÈCLEのものづくり、そしてピエール・フルニエとの縁を経てANATOMICA KYOTOへとつながった物語を伺いました。
前編・後編に分けてお届けいたします。

—— 苧麻の生地には、どんな魅力を感じていますか?
絣の織物を作るのは、とてつもない工程で、膨大な情熱と時間を要します。
昔の人は労を惜しまず、なんて素晴らしいものを作っていたのでしょう。
どうにかして、この美しい手仕事を、この素材を、いろいろな人に見てもらいたい。そういう思いで、このブランドを始めました。
きっかけは東寺の市での一目惚れ。
美しさに惹かれて、この古布のこと、麻の歴史や自然布というものを学び始めたんです。
着物を売っているお爺ちゃんやおばあちゃんたちから聞いたひとつひとつが、貴重なお話でした。
今でも着物を手にして、洗って、糸をほどくたびに、その美しさに「ありがとう」という気持ちでいっぱいになります。
もしかしたら私たちのDNAに染み付いている、古来からの身体感覚に訴えかける何か大切なものが、この生地には含まれているのかもしれません。
まるで精を手にした時のように、からだの中心に響く、暖かな何かを感じます。
手塩にかけた布、先人の想い。この美しさは、様式だけの美ではなく、さらに深く心を動かすんです。
そして、糸になる前の苧麻(からむし)を育てるという、昭和村の村人の先祖代々の教えのお話も、とても尊いものでした。
糸になるまでにも、壮大なストーリーがあるんです。
キモノを毎日のように洗っているこの時間が大好きで、本当にいつも、
「貴方も美しいですね〜。どちらから来られたのですか?」
と、話しかけております(笑)。
常に手元に山のようにあるキモノから、「今日はこれを洗って、○○作ろうかな」と考える。
そんな時間が幸せです。
いっぱいの古布に囲まれているのが、贅沢なんです。
—— 紀[KI]-SIÈCLEは、どのように始まったのでしょうか?
「時を纏う」。
紀[KI]-SIÈCLEは、日本の古布とフランスの古着を収集する中で生まれました。
私は古布を自分の手で丁寧に洗って、時間をかけてほどいていきます。着物を一枚の布に還すんです。
一枚の布に還った古布にハサミを入れることは、この布の運命の最終章を担うことだと思っています。
それぞれの生地の個性や傷、強さを身体で感じ取りながら、どの組み合わせで何を生み出すかを決めていく。
もともとフランスにいたときからヴィンテージの服を集めていたので、100年前のフランスのワークウェアに、100年前の日本の着物生地を組み合わせることを考えました。
「紀」は一世紀、二世紀の「紀」。「SIÈCLE」はフランス語で同じ意味です。
100年前の二つのものが、100年後に出会ったらどうなるんだろう、と。
どの生地も一つとして同じものはなくて、それぞれに美しく、愛おしい。
これほどまでに手間と時間を惜しまず作られた織物は、かつてのようには再現できません。
だからこそ、どうかこれからの新しい100年を生き延びてほしい。
その願いを込めて、一着一着を仕立てています。
—— 今は「一つの着物から、一つの服を作る」という方法にも取り組まれていますね。
私が今一番興味を持って作っているコート「MINIMAL」のシリーズは、全部同じ形なんです。
着物をほどいたときって、襟とか袖とか、同じようなパーツが出てくるじゃないですか。
だから、着物の袖から新しい服の袖を作る。襟から襟を作る。
できるだけ、ほどいた着物が余らないようにする。
そういうふうに逆算して作った形なんです。
以前は、フランスの古着の形に生地をのせて作っていました。
たとえばフランスの漁師の服から取った形とか。
生地を2つ、3つとミックスすることもやっていたんですが、一つひとつ着物が違うので、うまくできるときもあれば、透け感だったり、厚みだったり、うまく作れないときもある。
だから思考を変えて、「一つの着物で一つの服を作る」ということを始めたんです。
実際に着てみると、一つひとつシルエットが違うんですよ。
生地のハリ感が違うので、落ち方も全然変わってくる。
個性的な柄のものは、他のものと合わせづらかったりもします。でも、一つの着物から一つの服が作れるようになると、組み合わせの苦労を感じなくなりました。
そして何よりも、
MINIMALは、一枚の着物を最大限に使うことで、ハギレを最小限に抑え、オリジナルの着物をまた羽織る感覚で纏えるのです
ハギレに関しては友人にお願いして、服以外のものにしてもらったりしていましたけどね。

—— 日本の古い生地にフォーカスするようになったのは、いつ頃からですか?
2019年ごろからかな。
蚤の市で見つけるたびに気になっていて。気になる生地を触ると、いつもこの生地(苧麻の古布)だったんですよね。
ヨーロッパには同じ麻の仲間でもヘンプやリネンが主流で、このカラムシ(苧麻)はありませんでした。
麻の中では一番繊細な糸がとれる種の植物から生み出される生地でした。
そんなすごい布だったんです。
パリ28年の生活では、目に触れることのなかったこの美しい素材に帰国後出会い、夢中になりました。
この布に出会うまでは、まさか自分がものを作る側の仕事をするつもりはありませんでした。
日本にはこんなに素晴らしい生地があるんだということを、フランスの友達やデザイナーの人たちにも見せたかった。
それが紀[KI]-SIÈCLEの始まりでした。
2022年くらいからブランドを立ち上げて、a little placeが発表の場になりました。

後編へ続く